【名詞】《精製方法|ウェットハル|インドネシア式》
インドネシア・スマトラ島を中心に広く行われているコーヒーの伝統的な精製方法で、現地語では「Giling Basah(ギリン・バサ)」と呼ばれる。
この方式では、通常のウォッシュト(湿式)やナチュラル(乾式)と異なり、乾燥途中の高含水状態のパーチメント(殻付き豆)を早期に脱殻(脱穀)し、裸の豆を天日乾燥するという特殊な工程をとる。
■ 基本工程(一般的な流れ)
- 果肉除去(パルピング)
- 一晩の発酵または簡易な水洗
- 水分を50%程度まで軽く乾燥(半乾燥)
- 水分値40~50%で脱殻(ウェットハル/湿式脱殻)
- 裸豆(グリーンビーンズ)を天日乾燥(最終的に11〜13%まで)
■ 特徴と違い(他の精製法との比較)
| 区分 | スマトラ式(Giling Basah) | ウォッシュト式(Fully Washed) | ナチュラル式(Dry Process) |
|---|---|---|---|
| 脱殻のタイミング | 水分が高いうちに脱殻(独自) | 完全乾燥後に脱殻 | 完全乾燥後に脱殻 |
| 発酵処理 | 簡易または省略されることも多い | 発酵槽で12〜48時間 | 行わない(自然発酵) |
| 乾燥工程 | 脱殻後の裸豆を天日で乾燥 | 殻付きのまま乾燥(遅い) | 果肉付きのまま乾燥(長時間) |
| 風味の傾向 | 土っぽい、ウッディ、スパイシー、複雑なコク | クリアで明るく酸が強い | 甘く重厚、発酵香が出やすい |
■ スマトラ式特有の風味
- 湿式脱殻による物理的な豆の変形が起こりやすく、外観は不揃いで「スレートグリーン(青黒い色調)」となることが多い
- 味わいは、重厚なボディ、草木のような香り、アーシー(土のような)な風味、シナモン・ナツメグなどのスパイス感が特徴
- 酸味は控えめで、「甘み」や「複雑な苦み」が主体のプロファイルが多い
■ 地域と背景
| 地域 | 内容 |
|---|---|
| スマトラ島 | 主な産地:アチェ、リントン、マンデリン地域など/「マンデリン」はスマトラ式の代表格 |
| 他インドネシア地域 | スラウェシ島(トラジャ)、フローレス、ジャワなどでも同様の手法が用いられることがある |
| 歴史背景 | 雨量が多く乾燥が困難な気候風土に適応するため、効率的な乾燥と早期現金化を目的に発達したとされる |
| 生産者規模 | 小規模農家による分散生産が多く、各工程が農家単位で行われることも多い |
■ 意義と評価
| ポジティブ評価 | 課題点 |
|---|---|
| ・独特で個性的な風味が高評価のシングルオリジンに繋がる | ・外観の不均一さや欠点豆の混入リスクが比較的高い |
| ・ロースト時の反応が豊かで深煎りに向くプロファイル | ・プロセスが農家主導のため品質のばらつきが出やすい |
| ・マーケットでは「マンデリン」ブランドとして強い認知と需要 | ・酸味を重視するマーケットでは好みが分かれる傾向もある |
【関連語】スマトラプロセス/ウェットハル/ギリン・バサ/マンデリン精製/インドネシア式精製
【類語】半水洗式/パルプドナチュラル/ハニー製法(※構造は異なる)
【分類】精製方法/地域性/風味形成/生産処理工程


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