コーヒーが栽培される「種子」から、消費者の手元で飲まれる「一杯のコーヒー」になるまでの全過程を包括的に表す語句。農業、加工、流通、焙煎、抽出の各段階を総称する言葉であり、持続可能性や品質管理の文脈において重要視される。生産者と消費者を結ぶ概念的な橋渡しともされ、トレーサビリティ(追跡可能性)やフェアトレードといった倫理的価値とも深く関係している。
〔構成段階〕
① 栽培(Seed)
コーヒーの旅は、品質に大きな影響を与える品種の選定から始まる。選ばれた種子は苗床(ナーセリー)で丁寧に育てられ、成長に適した気候・標高・土壌を持つ農園へと植えられる。病害虫や気象条件への耐性も考慮され、持続可能な農法(シェードツリー栽培や有機農法など)を採用するケースも多い。
② 収穫(Harvest)
コーヒーチェリーが真紅に色づき、糖度が高まった段階で手摘みされる。完熟豆のみを選別して収穫する「セレクティブ・ピッキング」が推奨され、高品質豆の前提条件となる。標高が高い地域では、成熟のタイミングがバラつくため、数回に分けて収穫されることもある。
③ 精製(Processing)
収穫されたチェリーは、その後の風味に大きく関わる精製処理へ。主な方法には以下がある:
- ウォッシュド(水洗式):果肉と粘液質を機械と水で除去。クリーンで明瞭な味わい。
- ナチュラル(乾燥式):チェリーのまま乾燥。フルーティーでワイルドな風味。
- ハニー製法:果肉を除去し、粘液質を一部残したまま乾燥。甘みとボディのバランスが良い。
- スマトラ式:スマトラ島特有の半水洗式。アーシーで重厚な味わい。
④ 選別・等級分け(Sorting & Grading)
乾燥後の生豆(グリーンビーンズ)は、欠点豆(ディフェクト)を除き、スクリーンサイズや重量、形状により等級分けされる。さらにハンドピックで最終的な選別が行われ、高級品になるほどこの工程が丁寧に実施される。SCAや各国の格付け基準が適用される。
⑤ 輸送(Export)
選別された生豆は、通関処理を経て輸出用の麻袋や真空包装に詰められ、コンテナ輸送で世界各地の焙煎業者に届けられる。輸送中の湿度や温度管理が品質維持に不可欠であり、「マイクロロット」や「シングルオリジン」豆は特別な取り扱いがされる場合もある。
⑥ 焙煎(Roasting)
生豆は焙煎機で加熱され、メイラード反応やカラメル化により複雑な香味を形成する。焙煎度(ライト〜フルシティ〜フレンチ)によって酸味・苦味・ボディが変化。焙煎士の技術とプロファイリングによって、豆本来のポテンシャルを最大限に引き出す。
近年は、ローストプロファイルの数値化(Agtron値やL値)も進んでいる。
⑦ 抽出(Brewing)
焙煎豆は粉砕され(グラインド)、好みに応じた方法で抽出される。主な抽出法には以下がある:
- ペーパードリップ:雑味のないクリーンカップ
- フレンチプレス:オイル分も含んだ重厚な味わい
- エスプレッソ:高圧抽出による濃密なショット
- サイフォン・エアロプレスなど、抽出器具も多様化している。
抽出時の湯温・時間・挽き目などが風味に直結するため、精密な管理が求められる。
⑧ 提供(Serving)
抽出されたコーヒーはカップに注がれ、ついに一杯のコーヒー(Cup)として提供される。この瞬間こそが「フロム・シード・トゥ・カップ」の集大成であり、生産者・流通者・焙煎士・バリスタ、すべての情熱が凝縮された時間。
最近ではサステナブルな取り組みとして、「トレーサビリティ情報」や「生産者の顔が見えるコーヒー」が広がっている。


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