【名詞】《抽出器具・抽出方法|伝統抽出技法|ハンドドリップの一形態》
起毛布(フランネル)製の専用フィルターを用いて、コーヒーを抽出する伝統的なドリップ手法の一つ。日本では「ネルドリップ」として広く知られ、紙フィルターを使うペーパードリップと並ぶ代表的な手動抽出法。特に昭和期の喫茶文化を支えた抽出技術として、日本の喫茶店文化と深く結びついている。
■ 語源と背景
「ネル(flannel)」とは、柔らかな織布の一種であるフランネル生地を指す。英語では「cloth filter」や「flannel drip」とも表記されるが、「ネルドリップ」は日本独自の呼称として定着している。
■ 抽出原理と特徴
ネルフィルターは目が細かく、紙フィルターと比べてコーヒーオイルをより多く抽出液に含ませることができる。そのため、**口当たりがとろりとした質感(ボディ感)**を持ち、丸みのある甘みやコク、滑らかな後味が強調される傾向にある。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 質感(マウスフィール) | しっとり・まろやか。コーヒーオイルが残ることで豊かなボディが得られる |
| 抽出制御 | 注湯スピード・湯温・撹拌などのコントロールにより、味のバランス調整が可能 |
| 適正湯温 | 通常83〜88℃程度。高温すぎると過抽出になりやすい |
| 抽出時間 | 一般に3〜4分程度。ネルの目詰まりにより遅くなる傾向がある |
■ 器具構成と使用法
ネルドリップは以下の構成要素で構成される:
- ネルフィルター(フランネル布):主に綿製。表面が起毛されており、微粒子を物理的に濾過。
- ネルホルダー:布を固定する金属または木製のリングと持ち手。V字型または丸底型がある。
- ドリップポット:細口のケトルが推奨される。
抽出時は、布の膨らみを活かして中心に粉を集め、中央から外側へ「の」の字にゆっくり注湯する技法が伝統的とされる。
■ メンテナンスと管理
ネルフィルターは使い捨てではなく、繰り返し使用するために高度な管理が必要とされる。
- 使用後は水洗い後、密閉容器に入れて冷蔵(または水に浸し冷蔵)保存
- 乾燥させると酸化臭がつきやすく、再利用に支障が出る
- 一定期間使用すると目詰まりや変色が生じるため、定期的な交換が必要
こうした管理の手間と技術的ハードルの高さから、「職人技」「熟練技法」としての側面が強調される抽出法である。
■ 現代における位置づけ
- ネルドリップは一部の喫茶店やスペシャルティコーヒーの愛好家によって継承されており、
そのクラシックな抽出美学と、味わいの奥行きが再評価されている。 - 近年では「サイフォン」「イブリック」などと並ぶレトロ抽出法としての文化的価値も見直されている。
【関連語】ハンドドリップ/フランネルフィルター/喫茶文化/コーヒーオイル/抽出技術
【類語】布フィルター/クラシックドリップ/職人技法


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