概要:
ハニープロセスは、コーヒー精製法の一つであり、ウォッシュト(フーリーウォッシュト)とナチュラル(ドライプロセス)の中間的な位置づけにある。チェリーの果肉をデパルピング機で除去した後、ミューシレージを完全には洗い流さずに残した状態で乾燥を進めるのが特徴である。乾燥中の攪拌頻度やベッドの厚さ、通風条件などの管理変数が風味と品質を左右する。残すミューシレージの量により、イエロー・レッド・ブラックなどのバリエーションが区分され、発酵由来のフレーバーや質感の濃度が異なる。
語源・由来:
「ハニー」という名称は、実際には蜂蜜を使用するわけではなく、ミューシレージの粘質層が乾燥中に黄金色に変化し、蜂蜜のように見えることに由来する。スペイン語圏では「miel(蜂蜜)」とも呼ばれる。ブラジルでは「パルプド・ナチュラル」という名称で普及したが、コスタリカを中心とする中米諸国が差別化のために「ハニープロセス」という呼称を広めた。
歴史と背景:
1990年代のブラジルで、収穫量の多い生産国において効率性を保ちながら水使用量を削減する方法として「パルプド・ナチュラル」が導入された。その後、2000年代のコスタリカで小規模マイクロミルが登場し、プロセスの差別化と付加価値創出の手段として「ハニープロセス」を体系化。イエロー、レッド、ブラックの段階区分が生まれ、国際市場やカップ・オブ・エクセレンス(COE)で注目を集めるようになった。環境負荷を軽減しつつ高品質を実現する点が評価され、現在では中米・南米を中心に世界各地へ広がっている。
特徴と風味:
ミューシレージ中に含まれるペクチンや糖分が乾燥過程で微生物発酵を受け、乳酸や軽い酢酸、さらにはエステル類が生成される。この作用により、ウォッシュトに比べて甘さと口当たりが強調され、ナチュラルよりはクリーンな酸が残る傾向を示す。イエローハニーは軽やかで透明感があり、レッドハニーは熟した果実感とボディのバランスに優れ、ブラックハニーは濃厚でドライフルーツや黒糖を思わせる複雑な風味を持つ。リスクとしては乾燥の遅れによる過発酵やカビ臭が挙げられ、特に湿度の高い地域では細心の注意が求められる。
焙煎・抽出との関係:
焙煎では、残存糖類が多いため熱反応が早く進み、1ハゼ以降でのフレーバーが顕著に立ち上がる。過度な急速焙煎では甘味成分が焦げ香に隠れるため、乾燥〜メイラード段階での緩やかな熱管理が推奨される。排気を開放気味に設定し、クリーンさと甘さを両立させることが望ましい。抽出においては、TDSを過度に高めなくても豊かなボディと甘さが得られる。ペーパードリップでは中細挽き〜中挽きを基準とし、湯温は90〜93℃がバランスを取りやすい。エスプレッソでは1:2前後の比率が推奨され、過抽出による酸の尖りを抑えつつ甘さを引き出す設計が有効である。
専門的評価:
SCAカッピングプロトコルでは、特に「Sweetness」「Body」「Aftertaste」で高得点を得やすい。一方、「Clean Cup」「Uniformity」は乾燥管理の巧拙によって大きく左右される。競技会やオークションではハニープロセス特有の甘さと果実感が評価されやすく、トレーサビリティ情報として「残存ミューシレージ量」「乾燥日数」「攪拌頻度」などの詳細が重要視される。環境面ではウォッシュトに比べて水使用量を削減できるため、持続可能性の観点からも高く評価される傾向にある。
関連語:
- パルプド・ナチュラル
- ミューシレージ
- ナチュラルプロセス
- ウォッシュトプロセス
- カーボニック・マセレーション


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